明くる日の夜には、ひとり京都に向かった。
紅葉の京都は一年で最も人の多い時期で、
行き当たりばったりでホテルを探すのにもひと苦労した。
一泊して気持ちを新たにした僕は、
三条駅付近で一日1,000円の自転車を借り、気ままに走らせた。
自力で進んでいく開放感でそのまま勢い良く飛び出したのだが、
下り坂の天気予報を受け、ニットキャップの上からモッズコートのフードを被り、
右ポケットにiPhone、左ポケットに借り物のiPodを入れ、
リュックにガイドブックとカメラを仕舞い込み、ペダルを漕いだ。
見知らぬ土地で人の選曲を聞くのは慣れないことだったが、
くるりがこの街にはやはり似合っているように思えた。
偶然通りかかった京都大学が大学祭を行っていた。
十年前の学生時代を思い返し、思い切ってキャンパスに足を踏み入れる。
すると、プラカードを掲げたり、思い思いの衣装に扮した学生たちが
方々に愛想を振りまいていた。
キャンパス内には趣のある場所も勿論あるのだが、
祭に張り切る学生特有の雰囲気に食傷気味になり、足早に立ち去ることにした。
僕は昔からそういう類いのことが合わない性分だったことを思い出した。
そこから、右ポケットの中のiPhoneでnaviしながら走り、
個性的な書店で僕が持ち帰ったのは、イヴェントのフライヤーばかり。
そう言えば、数年前に京都を訪問したときに持ち帰ったフライヤーも
まだ部屋の片隅でときどき見かけることができる。
おそらく県外客であろう人ごみを掻き分け銀閣寺を廻っていると、
ついに大粒の雨が降り出した。
傘をさす人が増え、さらにゆっくりとした歩みに、
参道の帰り道の混雑は増していった。
僕は旅の経路を変え、自転車でも走らずにいい廻り方を設計しようと
普段からcafeを利用することがない僕でも、唯一興味を持ったのは
このcafeの入る1928ビルが京都市登録有形文化財でありながら、ギャラリーも含め
古さを生かすような使い方をしていると知ったからだ。
自転車の運転で前面が濡れたしまったコートとショーツ姿の僕は、
案内のまま席に座り、iPhoneとiPodの残りの電池を確認した。
常にnaviを使っていたiPhoneの残量は半分になり、
iPodはその確認の途中で電池が切れてしまった。
ニットキャップを脱ぎ、若干濡れた髪の毛をそのまま掻きあげていると
遅めのランチはギリギリまだやっていると店員に告げられた。
思いのほかゆっくりできたこのcafeは
退廃的で男性的で居心地のいい空間だった。
床に貼られたタイルの柄から手洗いの蛇口まで、
このビルの持つ年月による“あじ”は、ズルさの連続だった。
レコード屋が併設されていることもそれに拍車をかけていた。
食後のコーヒーを味わって飲めない僕は、
仕方なく頼んだロックウィスキーの氷を溶かしながら
雨の京都のどこを見に行こうか、とガイドブックに目をやった。
周りには集団の女性客ばかりだった。
Cely