私はしがないサラリーマンさ。
サラリーマンだった、と言ったほうが正しいのかもしれんがね!
もう会社なんかなくなってしまったよ。
女房がいて、息子がいて、
いや、これも、居た、と過去形にしたほうが正しいのかもしれんが。アハハ!
何もかも全部過去になってしまった。
いまは男一匹、何者でもないのさ。これはどうしたもんだろうか?アハハ!」
「女房子供が死んだことは、そんなに哀しくもないさ。いや、哀しいかな?
どっちだろうねえ……。
ただ、すっきりしたのは確かだよ。
……もちろん愛してはいたさ!
信じて貰えるかはわからないが、確かに愛してはいたよ。当たり前だろう?
だから、怠け者の私が毎日朝から晩まで働いていたんだ。
仕事なんか少しも楽しくなかったがね!アハハ!
それでも、飯を食って、働いて、
働いて働いて、寝て、起きたら働いて、休日は一日中寝て。
馬車馬みたいに休むことなんか許されないで四六時中仕事ばっかりしていたさ。
家族への愛のためにね。
もっとも、その家族はもういないんだが。会社もないさ。
当時は随分と苦しく思ったものだが、今思うと、あれは何だったんだろうねえ!アハハ!」
「ねえ、聞いておくれよ。ほんとうに、あの苦しみはなんだったんだい?
ただ働いて、それが私の生活だったんだよ。何も楽しくなんかなかったよ。
楽しいかどうかなんて考えることも、忘れてしまうほどさ。
考えたって、どうにもならなくてね、だから考えないことが一番楽だったさ。
それでもいつか何かあると思って頑張っていたのさ。それがこの有様?
なんだいこれは?
なんにもないじゃないか!
あの私の苦しみは、どこへ行ってしまったんだい?
わかるかい、学生さん?わかるなら教えてくれよ。アハハ!」
「それじゃあ、悪かったね、学生さん。
最後まで話を聞いてくれて有り難う。きみは私の友達だよ。
同情なんかしないでくれ。別になんともないよ。もういいんだ。
それより、雪がたくさん降っているね。とても美しいじゃないか!
美しいって思う気持ちは素晴らしいねえ。なんだか内側から綺麗になるみたいさ。
それじゃあ、私は歩いていくよ。……さようなら!きみに幸あれ!」
僕も最近似たような事を考えていました。
確かに震災前でした。
http://www.youtube.com/watch?v=T72LcAZhQq4